PTSD
日常生活で1年前にあった出来事を明確に覚えていることは少ないでしょう。それは体験された内容が記憶の貯蔵庫に運ばれる際に適切に処理がなされているためです。
事件や事故に遭うといった非常にショッキングな出来事を受けた場合には、その機構がうまく働かなくなることがあります。そのときの感情や身体感覚、自分に関して感じた否定的な認知含めて、ありありと再体験をしてしまうようなフラッシュバック、そのときの場面を悪夢でみるといった侵入症状、その場面を思い出すことを避けるようにしたり、その場面にまつわる場所、人物、状況を避けるようにする回避症状、いらいらしたり、夜眠れなくなる、ちょっとしたことに過敏に反応するといった過覚醒症状などを呈することがあります。また、自分が悪い、人は信頼出来ない、といった否定的な認知が働いて、うつ症状を呈しやすいといったことも良く見られます。こういった症状が見られる病気をPTSDといいます。
治療としては薬物療法と心理療法が挙げられます。
薬物療法としてはSSRIと言われる抗うつ薬に効果があるとされ、使用されることが多いです。一部の抗精神病薬についても一定の効果が示唆され、適応外ながら使用されるケースもあります。
心理療法としては認知行動療法をベースにした認知処理療法、持続エクスポージャー法、EMDR、ブレインスポッティングといった治療法が挙げられますが、治療出来る医療機関が少ない現状があります。
PTSDは命に関わるような事件や事故が原因で上記のような症状を呈していることが診断基準上必要とされますが、実臨床ではそこまでのトラウマ体験とは評価出来ないものの、上司から怒鳴られた、給食の時に吐いてしまった、彼氏に浮気されたといったその当時の自分にとって主観的にショッキングであった体験が、会社に復職するのが怖い、給食の時間が怖いから学校に行きたくない、彼氏に浮気されているのではと思って、つい彼氏に当たってしまう、といった社会的な不適応につながっていることが多いように思います。
上記のようなコンテクストで社会的な不適応を起こしている場合、EMDRやブレインスポッティングといった治療法によりその当時の自分にとって大きな出来事であった体験を処理することが出来るので、社会的な不適応状態が改善出来うることは指摘しておきたいと思います。
解離性障害
解離性障害は、幼少期の逆境体験や外傷体験などの強いストレスの影響を受けて、意識、記憶、情動、知覚の同一性のつながりが分断されるものです。
人間は辛すぎるエピソードを体験すると、意識、記憶、知覚などの同一性を断つことによって、自分があたかもそのストレスを受けていないかのようにストレスを処理することがあります。そういった状況が続くことで解離症状が固定化、顕在化していくことになります。
記憶の同一性が断たれた場合には解離性健忘といって記憶が保たれなくなる、体験の同一性が断たれた場合には離人症といって自分が体験している現実世界の感覚が損なわれることがあります。
そして人格の同一性が損なわれた場合がいわゆる多重人格という解離性同一性障害という状態になります。
基本的には心理療法を中心とした治療になります。治療者によってスタンスは異なりますが、安心できる環境の調整が重要であると認識していることは共通しているでしょう。また、解離するといった形でしか対処出来ない程のストレスを受けてきた自分のことを労るといった姿勢も重要だといえるでしょう。いわゆるPTSDの症状としてのフラッシュバックが症状として辛いということであれば、フラッシュバックに対する対処法を学習するといったことも重要になってきます。また現実社会で生活スキルを色々と獲得していくということも重要になるでしょう。アサーティブなコミュニケーションが出来るようになることも必要になるでしょう。
なお、解離をメインのターゲットとして治療の中心に据えてしまうと却ってご本人の状態が悪くなってしまったり、何の治療をしているのか分かりにくくなってしまうことが少なくありません。将来の本人の希望や目標がなんなのかを振り返りながら、治療を行っていくことが1番大切であると言えるでしょう。
境界性パーソナリティ障害 BPD
パーソナリティとは周囲の環境や自分自身について、知覚したり、思考したり、コミュニケーションをとったりする持続的なパターンで、広範囲の社会的及び個人的な状況において示されるものを指します。そして、このパターンが文化的な平均から著しく偏っていて、著しい苦痛や社会的機能の障害をもたらすものをパーソナリティ障害といいます。
境界性パーソナリティ障害は感情のコントロールの難しさ、それに伴って生じるコミュニケーション様式の偏りを中核症状とした疾患です。
交際相手などに別れられないようにものすごく努力をしたり、交際相手のことを理想の相手と褒め称えたと思ったら、一転してこき下ろすといった不安定な対人様式、自殺関連行動、気分が上がったり下がったりジェットコースターのように切り替わる、慢性的に空虚な気持ちに陥る、怒りの制御が難しいといった症状が典型的とされます。
境界性パーソナリティ障害というとネガティブなイメージを持たれがちですが、臨床上は発達特性の偏りがあるか、幼少期などに逆境体験があるか、もしくは不安障害と診断出来るレベルで不安が高いかのいずれかであることが多く、境界性パーソナリティ障害が主診断ということはあまりないように思います。
発達特性の偏りの場合には衝動性が高いことが少なくないため、衝動性をコントロール出来るような薬物療法を行うことで劇的に改善することも少なくありません。また不安の高さから周囲を振り回してしまうような行動をとっているという場合には、SSRIといわれる抗うつ薬や一部の抗精神病薬を使うことで情動が安定されるケースが多いでしょう。いわゆるPTSDと診断出来るような逆境体験がある場合にはそういった治療を行うことで改善出来ることが少なくありません。
ぜひ上記のような症状でお困りの方は受診を検討してみてください。