全般性不安障害
不安というとネガティブなイメージを持たれるかもしれませんが、不安を感じることで将来のリスクに備えられたり、危険を回避できたりするのです。不安とは誰もが感じうる、そして、ポジティブな結果につながりうるものです。
サバンナにいるシマウマなどをイメージしてもらえると良いでしょう。ライオンが500m以内に近づいてきたときに、危険が近づいていると不安を感じて、更に近づいてきたときに全速力で逃げられることで身を守れるわけです。
他方で、サバンナのどこかにライオンはいるわけですから、ライオンからの距離に関係なく常に不安を感じてしまうと、それに多大なエネルギーを消費することになってしまい、疲弊してしまうでしょう。本当にライオンが近づいてきたときにすぐに気が付けずに逃げ遅れてしまうかも知れません。
全般性不安障害はそういった形で、毎日、漠然と、もしくは、日々移ろいゆく特定の内容の不安を抱えながら生活することになるため、精神的には不安、集中力の低下や抑うつ気分などを抱きやすく、身体面でも便秘、口の渇き、動悸などの身体症状を自覚しやすいとされます。
不安は適切なタイミングで生じれば、その後望ましい結果につながりうるものですが、過剰であったりすると、自分や周囲の人に様々な悪影響を及ぼしてしまいます。お子さんの安否を心配して、普段連絡がある時間からちょっと連絡が遅くなるだけで事故に遭ってないかなと不安になってしまい、連絡が遅くなったお子さんを怒ってしまうといったことが起こりやすいです。
余談にはなりますが、お子さんのことを不安に思われているという気持ち自体はお子さんが大事だからこその気持ちでとても重要なものではありますが、親御さんが不安が強すぎる状態でそれをお子さんに伝えると、お子さんには「親が自分のことを心配してくれている」とポジティブに受け取れず、「親は自分のことが嫌いだからあんなに怒るんだ」とか、「自分が親をあんなに怒らせるくらい迷惑をかけてしまった。こんな自分はいない方が良い」といった認知や考えにつながりやすいため、親御さんが不安に思う気持ちが、そのままポジティブな意味でお子さんに伝わるよう声の大きさや表現の仕方を心がけるようにしてみてください。
全般性不安障害の難しいところはご本人がもともとご自身のことを神経質だと認識しており、それが病気だと理解していないことが多いことです。また全般的に不安になりやすいため、医療機関に受診する、薬を内服するといったことに対しても不安を抱きやすいことも受診につながらない一因になっているのかも知れません。
治療法としては薬物療法や心理療法があります。
薬物療法ではSSRIといわれる抗うつ薬を用いたり、抗不安薬や一部抗精神病薬を用いるケースもあります。心理療法では認知行動療法を通して、自分が悲観的に物事を受け止めやすいことに気が付いたり、客観的に物事を受け止められるように、アプローチをしていきます。
治療を通して、楽に過ごせるようになったとおっしゃる方が少なくありません。日々張り詰めたような気持ちで生活されておられる方は、受診を検討してみてはいかがでしょうか。
社交不安障害
社交不安障害は、対人恐怖症といわれていたもので、人前で恥をかくのではないかと過剰に恐れて、そういった場面で強い不安や苦痛を感じる、もしくは、そういった場面を回避してしまうものです。結果として会社や学校に行けなくなってしまうといった結果につながることになります。
教室に入ろうとすると、人目が気になってしまって、入れない、人と一緒にご飯を食べようとすると、どう見られているか気になって、食べられないといったことがよくみられます。
10代での発症が多いとされます。不登校になっている児童の少なくない割合で社交不安が背景にあるケースがみられます。不登校という回避行動によって不安を感じずに済んでいる状況が長く続いてしまうと、再度登校するという刺激に対して不安を抱きやすくなってしまうため、早めに医療機関に受診するなどしてご相談頂くことが望ましいと考えます。背景には何らかの発達特性の偏りがあるケースも少なくなく、心理検査などを受けて頂くこともご本人の良いところ、苦手なところを理解する上で良いのではないでしょうか。
治療としては薬物療法と心理療法が挙げられます。
薬物療法としてはSSRIといわれる抗うつ薬や一部の抗精神病薬が使われることがあります。児童の方への抗うつ薬の処方は衝動性を亢進させてしまうリスクがあるため、慎重に行う必要があり、エスシタロプラム0.25錠など少ない量から処方させて頂くことがあります。一度お薬を飲むと飲み続けなければならないのではないかと思われる方も少なくありません。実際飲み続けた方が良い方もおられるのは事実ですが、お薬を飲むことで学校が危険な場所ではないと思えるようになったとおっしゃって、再度登校出来るようになり、その後お薬をやめることが出来たというケースは多々あります。
心理療法としては認知行動療法による治療を行います。自分に注意が向きすぎている、周囲から否定的に評価されていると考えすぎてしまう、といったところに介入出来るように治療を行っていきます。
お困りの場合には医療機関でご相談なさってみてください。
パニック障害
パニック障害は突然前触れもなく動悸、発汗、呼吸困難、めまいなどの症状を呈し、強い不快感に襲われるパニック発作、パニック発作がまた来るのではないかと恐怖に襲われる予期不安、電車、エレベーターや大勢のクラスメイトがいる教室など発作が起きたときにすぐに助けが求められない状況に対して恐怖を抱いてそういった場面を避けるようになる広場恐怖からなる不安障害圏に含まれる病気です。
精神科の病気の中では比較的ポピュラーなので、安易にパニック発作と診断されがちですが、他のメンタルヘルス疾患同様、心臓や甲状腺の病気、婦人科系の病気などでもパニック発作様の症状を呈することはありますので、身体的な異常がないか、心電図、採血などの検査を行う必要はあるということは忘れないでください。
薬物療法としてはSSRIといわれる抗うつ薬や抗不安薬、βブロッカーといわれる降圧薬が使われることがあります。治療初期は抗うつ薬と抗不安薬を併用して、抗うつ薬の効果が出てくるようになってから、抗不安薬を減量して、頓服薬としての使用に留めるといった形で薬物療法は行われることが多いでしょう。
心理療法としては認知行動療法による治療が行われます。不安は時間経過と共に下がること、練習することで下げられることを理解してもらうことが重要で、それに沿った形で心理療法が行われます。段階的に心理的な負荷の高い場面に取り組んでいくことで最終的な目標である「飛行機で沖縄に行く」、「大学の90分の授業に出る」を達成しようと試みていきます。